茗荷を食べ過ぎると、物忘れがひどくなる?

2023年7月15日

周利槃特(しゅりはんどく)さんと「茗荷」

 連日猛暑が続いています。熱中症など、健康にはお互い注意しながら今年の夏を乗り切りましょう。

 

 さて、夏が来ると麺類大好きな私としては、うどんにしようか、おそば、冷や麦、はたまたそうめんにしようかと考え、茹でるものを決めるのも楽しみの一つです。

 CMではありませんが、今回は、「そうめんやっぱり揖保乃糸」といきましょうか。

 この年になるまで知らなかったのですが、そうめん茹でる時に「梅干し」を入れるとコシが出るそうです。そして、薬味はなんと言っても「茗荷」ですね。

 

 前置きはこの位にして、表題の「茗荷(ミョウガ)を食べ過ぎると物忘れがひどくなる?」って話、聞いたことがあるでしょう。(科学的な根拠はない。)実はこの話、仏教と大きな関わりがある話が元となっているのです。

 

 お釈迦様のお弟子であった周利槃特(しゅりはんどく)さんは、物忘れが激しい人でした。

 その周利槃特さんが亡くなった後、お墓の周りに見慣れない草が生えてきました。この草を「茗荷」と名付け、茗荷を食べると物忘れをするという俗説が生まれたのです。(茗荷の名の由来は、自分の名前が覚えられなかった周利槃特さんが、自分の名(茗)を書いた札を肩に荷い名を尋ねられるとそれを見せたというところからきています。)

 

 周利槃特さんは、浄土真宗の根本聖典の一つである「仏説阿弥陀経」に、お釈迦様のお弟子たちの7番目に周利槃陀伽(しゅりはんだか)と出てくる人です。十六羅漢の一人に数えられる方ですが、お弟子の中で一番物覚えが悪く、自分の名前すら覚えることが出来なかったと言われていましたが、20年間続けた掃除一つで悟りを開かれたと言われています。

 鎌倉時代の『方丈記(鴨長明)』や赤塚不二夫さんのギャグ漫画『天才バカボン』に出てくる「レレレのおじさん」のモデルになったと言われています。

 

 周利槃特さんは、聡明な兄のすすめで、お釈迦様のお弟子になりますが、教えを覚えることが出来ないおのれの愚かさを嘆いていたところ、お釈迦様が、「自分が愚かであると気づいている人は、智慧のある人です。自分の愚かさを気づかない人が、本当の愚か者です。」と言われ、一本のほうきを渡し、「ごみを払おう、ちりを除こう」と唱えて、掃除をしなさいと教えました。

 そして20年掃除を一生懸命続け、ゴミやちりは実は、私の心の「煩悩」であることに気づき、それを除く修行を続け、阿羅漢と呼ばれる聖者の位にまで昇りつめました。

 お釈迦様は、「悟りを開くということは、決してたくさんのことを覚えることではない。わずかなことでも徹底すれば良いのである」と、大衆の前で周利槃特さんを讃えたといいます。

 

 実は漫画『天才バカボン』は、いくつか仏教的な背景があります。

「バカボン」とは仏教用語でお釈迦さまの敬称であり、サンスクリット語の「Bhagavan(バガヴァーン)」、覚れる者という意味で”Buddha(仏陀、ブッダ)と同義語を漢訳しています。

 

 作者は赤塚不二夫さん、生まれは富山県、北陸の地は仏教特に浄土真宗の盛んな土地柄で、かつ真宗門徒、お寺に参る環境で育っていたのでしょう。その赤塚さんは、数多くの著名な漫画家達が暮らしていたあの「ときわ荘」の住人で、その部屋の前の住人は、漫画「ブッダ」を描いた手塚治虫さんだった。手塚治虫さんの漫画「ブッダ」が正面からお釈迦さまの生涯を描いた仏教ストーリーであるのに対し、赤塚不二夫さんの漫画「天才バカボン」は、仏教的な背景を元に書かれていることは実に興味深いものです。

 

 そして何を隠そう、バカボンのパパの言葉「これでいいのだ」は”あるがまま”“ありのままを受け入れる”という仏教の悟りの境地が表されています。世の中には自分が思うようにならないことが多々あります。それこそが仏教でいうところの「苦」です。苦とは通常「苦しい」と考えがちですが、「思うようにならない」=「苦」となります。「これでいいのだ」という言葉には、一切皆苦であるとこの世を認識し、起こったことを前向きに解釈する姿勢があるのです。

 

 ちなみにバカボンの弟である天才「はじめちゃん」は東京大学名誉教授でインド哲学・仏教学者である中村元(はじめ)さんから名づけられました。

バカボンのパパは3年間もお腹の中にいた末に生まれ、すぐに歩いて「天上天下唯我独尊」」(注3)と唱えています。これも、お釈迦様ご誕生の由来によっているのです。

 

『天才バカボン』で、「おでかけですか、レレレのレー?」と、通りかかった人に声をかける、レレレのおじさんが登場します。このレレレのおじさんは、いつもほうきで道を掃いてますが、このレレレのおじさんのモデルとなったのが、お釈迦様のお弟子で、掃除で悟りを開いた、周利槃特さんでした。

 

 こうみてきますと、ひと味違った『天才バカボン』を発見できるのではないでしょうか。

 

※「自分が愚かであると気づいている人は、智慧のある人です。」