忘却とは、忘れさることなり (住職のひとり言)

2020年6月1日 

住職のひとり言
今回は、忘却→募る→忘れる→忘れてはならない 最近使われた言葉にひとり言

なんか、連想ゲームみたいなシチュエーションだなと思われますか?
最近、突然ある言葉が脳裏を掠めた。それは、「忘却とは忘れ去ることなり。忘れ得ずして忘却を誓う心の悲しさよ・・・」である。

 

★「忘却」という言葉の想い出
脚本家・菊田一夫氏の代表作であり、1952年(昭和27年)からラジオドラマで放送された、「君の名は」の冒頭のナレーションである。「番組が始まる時間になると、銭湯の女湯から人が消える」といわれるほど、多大な人気を獲得した。1953年映画化もされ、3部作の観客総動員数は約3,000万人だったという。主演の氏家真知子:岸惠子、後宮春樹:佐田啓二(中井貴一は息子)の熱演、「真知子巻き」、「数寄屋橋」、「君の名は」の主題歌「君の名はと たずねし人あり その人の 名も知らず 今日 砂山にただひとり来て 浜昼顔に 聞いてみる」(歌手 織井茂子)」と、思わずくちずさむ、記憶がよみがえる。(なんだろうこの感覚は。言葉に表すことは出来ない。)テレビドラマ(4度)、舞台化もされた。

★「募る」という言葉が炎上?
なぜ「忘却」という言葉がよみがえったかというと、2020年1月28日、「桜を見る会」に関する衆院予算委で野党の質問に、安倍首相が「私は幅広く募っているという認識でした。募集しているという認識ではなかった」との名(迷)答弁がネットで大炎上していたからである。

「忘却とは忘れさることなり」フレーズが似ている。つまり、「忘却と忘 」「 募と募集」ただそれだけである。ただそれだけのために「君の名は」の名ナレーションを持ち出すのかと、「君の名は」のイメージを損なうのかと、叱責されることは、甘んじて受けるところであり、深謝したい。

 

★「募る」と「募集」は違うのか?
野党議員は「募る=募集」だが、安倍首相は「募る≠募集」と理解しているようだ。このことばを聞いた人たちは、「云々」を「デンデン」、「前広」などで代表される言葉使いとは大きな違いがあり、専門家により、この言語感覚についての意見も採り上げられているようである。

 

★「国民は忘れる」?
前回は伝えるということの重要性について述べる中で、言葉の使い方の難しさについて取り上げた。
今回は、最近ネット上で炎上した言葉の例を取り上げてみたいと思う。
右京さんの言葉ではないですけど、細かいことが気になるんです。
(特定の個人や政策、思想信条についての是非を問うものでありませんので、ご了解願います。)

「国民は、時間が経てば忘れる」とネットで叫ばれている、「忘れる」という言葉。
これは、「安倍国民は忘れる 安保法制 検察庁法 に関するニュース」の中で取り上げられていた。
ネットでは、
 検察庁法改正「時間たてば…」 首相、安保法を例に見解
 「首相は同日夜のインターネット番組で特定秘密保護法や安全保障法制などを例に挙げ、「政策の中身、ファクトではなく一時的にイメージが広がるが、時間がたてば『事実と違ったな』とご理解頂ける」と述べ、検察庁法改正案の批判は収まるとの見方を示した。」
とあった。

確かに今、「特定秘密保護法」「安全保障法制」「森加計問題」等の盛り上がりはなくなっている気がする。それが、時間がたって理解が深まったと言えるか、疑問が残る。
かつて問題視し、大きなうねりを起こした世論も、次から次に発生する新たな話題に関心が移り、忘れ去られていくのも、一見致し方ないのかも知れない。
「桜を見る会」「新型コロナウイルスの世界的蔓延」「黒川検事長定年延長・検察庁法改正」「賭け麻雀・処分」等々。

 

★森友事件で自死した妻の訴え
私にとって、国民にとって大事なことを忘れない為には、どうしたら良いのでしょうか。
そのヒントになる出来事が最近ありました。

それは、森友事件で自死した財務局職員の妻がネットで再調査を求める署名活動を開始したことです。週刊誌に手記(遺書)が公開されたところ、週刊誌が完売となるほど大きな反響がよせられたという。
そして、性暴力被害者への支援など様々なキャンペーンについてインターネット上で賛同の署名を募るサイトとして有名なChange.org(チェンジ・ドット・オーグ)で、題名「私の夫、赤木俊夫がなぜ自死に追い込まれたのか。有識者によって構成される第三者委員会を立ち上げ、公正中立な調査を実施して下さい!」と署名への賛同を訴えています。既に35万筆を突破の署名が集まっているという。2020年6月13日に署名を締め切り、6月15日に安倍晋三首相に提出するという。

森友問題が国会で取り上げられてから数年、新たな告発により、記憶を呼び覚ましてくれた。
忘れることはしない一例である。

 

★人間は24時間後には74%忘れる・・・「エビングハウスの忘却曲線」
「忘れる」ということを調べてみた。ドイツの実験心理学者エビングハウス氏は、人間の脳は「忘れるようになっている」ことを発見しました(「エビングハウスの忘却曲線」という)。氏の実験によれば、1度覚えたものは1時間後に56%忘れ、1日後に74%忘れるということである。
しかし、1日ごとに復習すれば記憶はみるみる上昇していき、何度も復習すれば記憶が定着することが実験でわかったという。実験では1日目は26%しか覚えていなかったものが、2日めには50%を超え、3日めには75%を超えることが確認されたという。
つまり、放っておけばその日のうちに大半の記憶が消滅するということです。
 
「なぜ人の脳は忘れるようにできているのでしょうか。
それは脳が、生存にかかわる重要な情報を優先して記憶するためです。
もしも、エビングハウスの実験のような無意味な文字の配列や、友人たちとのたわいのない馬鹿話の一語一語、道行くたくさんの見知らぬ人の顔、壁の複雑なしみの形など、見聞きしたあらゆることが忘れられなくなり、日夜、洪水のように頭にあふれ出したら…
忘却の役割はおのずとわかるでしょう。」

人間は、忘れる動物だと言われる。何もかも覚えていたら、それこそおかしくなってしまうだろう。
私たちの脳は、生存にかかわる重要な情報を優先して記憶するのだそうです。生存に関わるかどうかは別として、重要な出来事は、良いことに付け、悪いことに付け、記憶に留めておきたいと思う。